山形の冬は長く、春がとても待ち遠しい。

桜の苗木を作っている父は何より桜を大事にしていて、仕事にも家族にも厳しい。

手伝いをする私はいつも小言を言われて、幼い頃から父とは喧嘩ばかりしてきた。

2016年の春。私の結婚が決まった。

雪の中、切り取った苗木を温室に入れて黙々と世話する父。

いつもは容赦なく飛んでくる小言が、今年は何だか歯切れが悪くて。

”桜と一緒に私も出荷だね”と言った私の軽口は、静かに雪に消えた。

準備に追われて迎えた結婚式は、澄み渡る空が綺麗な日。

謝辞は両家のお父様からされては、と提案してくれたのはプランナーさんで。

嫌だ嫌だとごねていたけれど、母に説得された父が最後に話し出した。

言葉に詰まる様子を何だか可愛く思っていたら、ふと父がこちらを向いて言った。

「手がかかる桜以上に手がかかる娘だけど」

「桜よりお前のことを大事に思っている」

小さい頃から見てきた、大事に大事に桜を育てる父。

その背中が脳裏に浮かぶ。

冷たい雪で鍛えた苗木を温かい温室に入れて世話しているときと同じ顔で、

父が私のことを見ていた。

そして、つぼみをつけた苗木をぶっきらぼうに差し出して。

「二人でちゃんと咲かせてみろ」

と、父は言った。